幼い日に父と兄を亡くして国王に即位したウィルフリッドにとって、ヴィクターは最も頼りになる存在だった。
右も左もわからないまま国政をしなければならないウィルフリッドを陰で支え、国を動かしたのは他でもないヴィクターだ。そのことに対し、ウィルフリッドは彼に心から感謝していた。
だからこそ、ここ数年で意見の衝突が増えてきた中でもヴィクターを宰相に残留させ続け、政治の一翼を担ってもらっていたのだ。
まさかそれが、全て彼の計画なのだとは全く知らないままに。
(俺はさぞかし愚かな国王に見えただろうな)
情けなさと共に湧き起こるのは、怒りよりも悲しみのほうが大きい。
どうか嘘であってほしいと願ったが、周囲の証言と状況証拠はヴィクターの悪行を裏付けるものばかりだった。
「こちらにいらっしゃいます」
文官が貴人用の牢獄の前で止まる。扉の前には左右にふたりずつ、合計四人の衛兵が立っていた。
「開けろ」
「はっ」
衛兵のひとりが腰にぶら下げた鍵を鍵穴に挿し、ドアを開ける。
ヴィクターは、質素な部屋に置かれたソファーに座っていた。
「叔父上、気分はいかがですか?」
「おや、どの面を下げて現れたんだか。お前はとんだ恩知らずだ。これまでの私の忠臣ぶりを忘れたのか?」
その言葉を聞き、胸がツキンと痛んだ。
「全て、私を騙すためでしょう」
「人聞きの悪いことを言うな」