アリスは目を凝らす。そして、中から這い出ようとしている男を見て驚いた。ウィルフリッドは馬に乗ったまま剣を抜き、男の首元にひたりと刃先を当てる。
「叔父上。こんなところで会うなんて偶然ですね」
それは、システィス国の宰相でありウィルフリッドの叔父である、ヴィクター=ノートンその人だった。
◇ ◇ ◇
こんなに陰鬱な気分なのは、いつ以来だろう。
執務室にいたウィルフリッドはひとり、深いため息を吐く。
ヴィクターが拘束されてからおよそ四ヶ月が過ぎた。
ヴィクターはウィルフリッドの叔父であり、現役の宰相であり、ノートン公爵家の当主だ。今回の一件が政界に与えた影響は計り知れない。
今はポーター侯爵であるロジャーの父が宰相となり、その穴を埋めるために奔走していた。
「陛下、そろそろ裁判が始まります」
「そうか」
文官が呼びに来たので、ウィルフリッドは重い足取りで裁判所へと歩き出す。
「判決前に、叔父上に会うことはできるか?」
「陛下がお望みであれば、手配します」
「では、頼む」
ウィルフリッドの返事を聞き、文官は頷く。