「アリス!」

 ウィルフリッドはアリスを馬車から外された馬に乗せると、自身はその後ろにひらりと飛び乗る。アリスを後ろから包み込むように手綱を握り、走り出した。

 しばらく走ったところで、遥か前方に箱馬車が走っているのが見えた。アリスは手綱を握るウィルフリッドの腕が再び青白く光っていることに気づく。

(あ、また光っているわ)

 ウィルフリッドから発せられたその光は見る見るうちに上空へと伸び、青かった空が急激に雲に覆われてゆく。ゴーッと風の音が鳴り始め、遥か前方──箱馬車の周囲が真っ白に覆われるのが見えた。

(あれは吹雪? あそこだけ局所的に吹雪が起きているの?)

 いつだかアリスを襲ったのと全く同じ状況だ。
 ウィルフリッドはそのまま走り続け、吹雪の中に突入する。彼の周囲だけガラスドームにでも覆われているかのように、吹雪が収まっていた。

「あ。馬車が見えたわ!」

 アリスは前方を指さす。
 驚いたことに、その馬車は吹雪の中をウィルフリッド同様に平然と走っていた。それこそ、ガラスドームにでも覆われたかのように。

 ウィルフリッドの腕が再び青白く光る。彼が前方に手を伸ばすと、馬車の前方に高い氷壁が立ちはだかった。
 ヒヒーンと嘶きと共に、馬が急停車する。そのはずみで、馬に繋がれていた馬車は大きく傾き、横倒しになった。

(誰か出てくる)