「さて。予想が正しければ、そろそろ仕掛けてくると思うのだが」

 ウィルフリッドが呟く。
 ふいに真っ青だった空を分厚い雲が覆う。ふわふわと雪が舞い落ちてきて、アリスは手袋をした両手を空にかざした。

「雪だわ」
「アリス、こっちに来い。お前たちも」

 ウィルフリッドがアリスと近衛騎士達に呼びかける。慌てて駆け寄ってウィルフリッドに抱きとめられたのとときを同じくして、ゴーッと地鳴りの音が聞こえてきた。

「陛下、雪崩です!」

 近衛騎士のひとりが叫ぶ。アリスははっとして山の上を見た。雪が、まるで打ち寄せる波のように壁となって近づいてくるのが見えた。

(何あれ……)

 雪崩がなんなのかは、システィス国の気候について学んだので知識として知っている。けれど、実物を見るのは初めてだ。
 想像以上の規模に、恐怖で体が動かなくなる。あの押し寄せる雪に巻き込まれたら、まず助からないだろう。

 表情をこわばらせるアリスの体を、ウィルフリッドが力強く抱き寄せる。

「絶対に俺から離れるなよ。お前たちもだ!」

 叫ぶウィルフリッドの右腕が、青白い鈍い光を発する。