七年もハーレムにいたのに妊娠しなかったので子供ができない体なのではというアリスの噂についても、子を成す行為をしていないのに子供などできるわけがないと納得した。

「初夜の日に、アリスが酒を飲んで酔いつぶれただろう?」
「はい」
「あの酒は寝つきをよくする外に、女性の痛みを和らげる媚薬のような効果もあるんだ。わかっていれば、用意していたのに」
「媚薬……? そういえば──」
「どうした?」

 アリスが何かを思い出したような顔をしたので、ウィルフリッドは優しく問いかける。

「ヴィクター様が夜のお薬を使っていらっしゃるようなのです。その薬はとても強力な反面、副作用が強く危険なのです。もしご存じなかったら危険なので、知らせたほうがいいのかと迷いまして──」
「叔父上が?」

 ウィルフリッドは眉根を寄せる。アリスは頬を赤らめながらも、今日の昼間に見た催淫剤について話してくれた。

「──というわけで、効果は強いのですが危ない薬なのです。飲んだ直後は平気なのに、数時間後に一気に症状が現れるので、ビクルス国のハーレムでも何人かが意識が混濁した状態になり大騒ぎになりました」
「なるほど。ビクルス国のハーレムで使われていた催淫剤か」

 アリスが言うような強力な催淫剤はこれまで聞いたことがなかったので、恐らくイリスが姉の伝手を使って入手したものだろう。だが、ウィルフリッドにはそれ以上に気になることがあった。

(意識が混濁して、判断力が鈍る……)

 父と兄が死んだときのことを思い出す。遠のきそうになる意識の中、朦朧とする父と兄に必死に呼びかけた。今思い返しても、無念のあまりに体が震えそうになるほどだ。