ウィルフリッドは目を細め、自分の隣に座るように促す。すると、アリスはウィルフリッドの横にちょこんと座った。
アリスの付けている香油の甘い香りが鼻孔を掠めた。ふわふわした髪が体に触れ、くすぐったい。けれどそれ以上に、この愛しい存在が自分のすぐ近くにいるという幸福感に満たされる。
「楽しんできたか?」
「はい、とても」
「どんな話をしてきた?」
「色々です。おすすめのお店のお話や、最近行った場所、それに面白かった本の話なんかもありました。そうそう、ウィルフリッド様に樹氷を見に連れて行ってもらう約束をしたとお話したら、イリス様がとっても興味を持たれていました。ウィルフリッド様が連れて行くくらいだからきっと素晴らしい場所に違いないので、場所がわかったら是非教えてほしいって」
「叔母上が樹氷に興味を?」
「はい。わたくしが行く前でも行き先がわかったら知りたいだなんて、よっぽど早く見たいのでしょうね」
アリスは話しながら、くすくすと笑う。一方のウィルフリッドはどこか違和感を覚えた。
(叔母上が樹氷に興味を示すなど、珍しいな)
ウィルフリッドの記憶がある限り、一度もそんなそぶりを見せたことなどなかったのに。今は寄宿学校で学んでいる最中の自身の息子が見たいと言ったときでさえ、面倒そうにしていた。
ただ、急に興味を覚えることもなきにしもあらずなので、アリスから話を聞いて行きたくなったのかもしれない。
「そうか。今、どこに連れて行くのがいいか悩んでいるのだが──」
一番のおすすめは、温泉地の近くにある樹氷の景勝地だ。樹氷を見たあとは、温かな湯に浸かりながら雪景色を楽しむこともできる。ただ、やや遠方にあるのでアリスに負担がかかるかもしれないと思い迷っていた。