(あら?)
その瓶にどこか見覚えがあり、アリスは首を傾げる。
(あれって確か、ビクルス国のハーレムで出回っていた催淫剤じゃないかしら?)
ビクルス国のハーレムではルシアが絶対的な寵妃だったが、クリスはごく稀に他の妃の元に通うことがあった。妃たちはそのチャンスを利用してなんとしても身籠ろうと、催淫剤が出回っていたのだ。
(でも、あの催淫剤は──)
とても強力な効き目を発揮すると評判だったが、用量を間違えると数時間後に意識の混濁や判断力の低下、最悪の場合は死に至ることもある危険なものだ。ハーレムでの使用が禁止されていたが、効果がてきめんなため、密かに入手して利用する者が後を絶たなかった。
イリスはルシアの妹なので、もしかしたら姉からその存在を聞いて入手したのかもしれない。
(危ない薬だからあんまり使いすぎないほうがいいですよって伝えたほうがいいけど──)
きっと夫婦生活で使用しているのだろうが、他人のプライベートな部分に意図せず踏み込んでしまい、気まずい。それに、貴族は男女問わず愛人を持って火遊びを楽しむ人も多いので、万が一愛人と楽しむためのものだった場合、下手に話すと夫婦不和の原因を作ってしまう。
(……ウィルフリッド様にご相談ね)
とりあえず、今は見なかったことにしてやり過ごそう。アリスはそう決めるとそっとドアを閉じ、隣の部屋──こんどこそ先ほどまでいたお茶会の会場へ戻っていったのだった。