その後もアリス達は会話を楽しむ。楽しい時間が経つのがあっという間だ。

「──どの部屋だったかしら?」

 アリスは廊下を歩きながら、等間隔に並ぶドアを眺める。

 お茶ばかり飲んでいたのでお手洗いを借りたいと思い席を立ったのがつい先ほどのこと。行きはメイドに案内してもらったのだが、帰りは自分で戻れるからと先に帰してしまった。

 ところがだ。ノートン公爵家の造りは、思った以上に難しかった。構造自体は一本の廊下の片側にドアが並んでいるだけなので単純なのだが、どれも同じような見た目なのでどれがサロンにつながるドアなのかがわからない。

(誰か、メイドでも──)

 その周囲を見回す。こんな時に限って、人っ子ひとりいない。

(仕方がないわね)

 多分この部屋だった気がする、というアタリをつけて、アリスはそっとドアを開ける。

「あ、違った……」

 そこは、書斎のような部屋だった。壁際には本がずらりと並び、中央にはテーブルが置いてある。部屋には誰もおらず、シーンとしている。

 アリスは慌ててドアを閉めようとする。その時、部屋の一番端にある棚がふと目に入った。下は観音開きの物入れ、これはガラス扉になっているその棚には、何本かのボトルが置かれていた。おそらく、酒だろう。そして、同じ棚に緑色のラベルが貼られた茶色い小さな瓶もあるのが見えた。