「アリス。開けてもいいか?」

 聞き覚えのある声に、アリスはパッと顔を明るくして立ち上がる。やって来たのは思った通り、アリスの兄であるアーヴィ国王太子だった。少し茶色がかった金髪に深い緑色の瞳、いつも穏やかな表情は記憶の通りなのだが、年を重ねて大人の色香が増していた。

「ご無沙汰しておりました、お兄様。わたくしが嫁いでいる間にご結婚なさって、子供も生まれたそうですね。おめでとうございます」
「ああ。今夜、夕食のときに紹介しよう。彼女はトリスタ国から嫁いできた王女なんだ」
「トリスタ国……。確か、北海に浮かぶ島国ですよね。優れた漁業技術があり、造船技術は世界有数だとか」

 アリスがいたハーレムには四十三人も妃がいたので、その中にはトリスタ国から来た女性もいた。彼女から故郷の話を聞いたときのことを思い出しながら、アリスは言う。

「そうなんだ。その造船技術を是非とも我が国に取り入れたくて、こちらから政略結婚を打診した。しかし、よく知っているな? トリスタ国は小さな国なのに」

 兄は随分と驚いた様子だ。

「どこからそんな知識を?」
「えっと、ハーレムには色々な国出身のお妃様がいらしたので、彼女達から話を──」
「へえ。大したものだな」

 兄は感心したように言う。そのとき、閃いた。