ノートン公爵家に到着したのは、約束の時間の少し前だった。

「時間前に申し訳ございません」
「いえ、大丈夫です。もうそろそろ時間前ですし」

 カメラが謝罪するアリスに顔を上げるように促すと、屋敷の奥へと案内する。
 広い廊下の床にはふかふかの絨毯が敷かれ、天井には小さなシャンデリアが等間隔に並ぶ。そこかしこに飾られる絵や壺などの美術品も、かなりの金額だろう。

(とても立派ね)

 ノートン公爵であるヴィクターは前国王の弟で、ウィルフリッドの叔父だ。現在最も王家に近い公爵家であることもあり、屋敷内の調度品はアリス達が過ごす王宮に遜色ないほどだった。

「こちらのお部屋へどうぞ」

 長い廊下にいくつも並ぶドアのひとつをイリスは開く。中は接客用のサロンになっており、六人掛けのテーブルセットが置かれていた。

「アメリア様!」

  テーブルに向かって、既にアメリアが座っていた。アメリアはアリスに気づくと、表情を明るくする。

「ごきげんよう、アリス様。先週以来ですね」

 アメリアは一旦息を置き、アリスのドレスをまじまじと見る。

「そのドレスはもしかして、以前お伝えしたミセストールの工房の製品ではありませんか?」
「はい、よくわかりましたね。実はウィルフリッド様にプレゼントしていただいたんです」