「病み上がりによいハーブティーをお淹れしますね。そちらを召し上がって、少しお休みください」
「ええ、ありがとう」

 しばらくすると、エマはトレーにティーセットを載せて戻ってきた。真っ白の陶器製ティーカップに注がれたのは、薄茶色のハーブティーだ。顔を寄せると、どこかりんごに似た甘い香りがした。

「これはアップルティーかしら?」
「カモミールティーです。胃腸に優しくてリラックス効果もあるんですよ」

 アリスはカップに口を付け、一口飲む。確かにアップルティーとは違うが、すっきりとして優しい味わいはとても美味しい。ハーブティーを飲んだおかげか、体がぽかぽかと温まりすぐに眠くなってきた。

 アリスはふわっと欠伸をして、ソファーのひじ掛けに腕と頭を載せる。

(今日のヴィクター様の反応はショックだったな)

 きっとこの国のためになると賛同してくれると思っていたのに。

(せっかくハーレムで得た知識を役立てられると思ったのにな)

 ハーレムで過ごした七年間。閉鎖した空間での生活を余儀なくされたので気が滅入ることもあったけれど、様々な国出身の妃や女官から聞いた話はどれも興味深いものばかりだった。
 内容は、公共事業などの政治的なことから食べ物、それぞれの王族の裏話まで様々だ。

(なんだか眠い……)

 あんなにたくさん寝たのに、またこんなに眠くなるなんて。きっと、まだ体力が回復しておらず、疲れも取り切れてないのだろう。