アリスはそのことを教えてくれた妃の話を交えながら、ヴィクターに訴える。
 ヴィクターは「なるほど」と言ってアリスを見つめる。

「しかし、私としてはその案の実行に慎重な姿勢をとらざるを得ません」
「え?」

 まさか真っ向から否定されるとは思っておらず、アリスは驚いた。

「辺境の地、特に貧しい家庭では、子供は貴重な労働力です。数年間とはいえ貴重な労働力が学校に通うことにより削がれることに、彼らは納得しないでしょう」
「しかし、それでは悪循環です。学があれば子供たちは自分たちの未来の可能性を、さまざまに広げることができます」
「様々に広げる? 所詮は平民でしょう。何ができるというのです」

 失笑気味に言われ、アリスは衝撃を受けた。

(所詮は平民?)

 その平民が納めた税金で、この国が成り立っているというのに。

「それに、知恵を付けると彼らは余計なことを考え始めるのでよくありません。かつて隣国で起きた革命も、知恵を付けた平民の仕業です」
「そんな……」

 やるせない感情を覚え、アリスはぎゅっと拳を握る。
 隣国の革命のことは、歴史を学んだのでアリスも知っている。国民を弾圧して贅の限りを尽くした国王に反発したレジスタンスが主導し、政権交代となったのだ。