「ごきげんよう、ヴィクター様」

 ヴィクターはアリスの訪問に、驚いたような顔をした。

「これは妃殿下! 体調崩されていると聞きましたが、もう大丈夫なのですか?」
「ええ、おかげさまで。心配させてしまってごめんなさい」

 アリスはヴィクターにも、迷惑をかけたことを謝罪する。

「あの日、血相を変えた陛下が妃殿下を腕に抱えて王宮に戻られたときは本当に驚きました。一体何が?」

 ヴィクターは探るような目でアリスを見つめ、尋ねる。

「えっと……、大したことじゃないの。ちょっと馬車が途中で立ち往生してしまって」

 本当のことを言えば、突然吹雪に襲われて馬車が身動きできなくなった。だがそれを言うと、『これだから、暖かい国から来た妃は困る』とヴィクターを始めとする国内貴族から思われてしまいそうな気がして、アリスは曖昧に言葉を濁した。

「そうですか。それで今日はいかがなされましたか?」

「えっと。教育に関する施策方針と予算を見せてもらいたいの」
「教育に関する施策方針と予算? それはなぜですか?」

 ヴィクターは、怪訝な顔でアリスに尋ねる。

「わたくしがビクルス国のハーレムにいたことは、ヴィクター様もご存知ですよね。そのときに、とある妃から識字率の高さが経済の発展に大きく寄与すると聞いたのです。先ほど、システィス国の就学率に関する資料を確認したのですが、特に郊外においてはまだまだ低いと感じました。だから、どうにかできないかと思いまして」