その数時間後、アリスは暇を持て余していた。両腕を広げ、うーんと伸びをする。

「暇だわ……」

 ウィルフリッドにはゆっくりしていろと言われたけれども、何もせずにじっとしているのもなかなか大変だ。部屋に置いてある本も全部読んでしまったし、刺繍する気分でもないし。

(ちょっとぐらいなら、お仕事してもいいかしら?)

 ここ数日寝込んでしまったので、本来アリスがやるべき執務は滞っているはずだ。無理のない範囲でそれらの処理をしておきたかった。

 アリスは寝室の内扉を開け、自分の私室へ移動する。机の上に置かれていたのは、あの吹雪に巻き込まれる直前に依頼していた、地域別の就学状況に関する資料だった。

 アリスは資料を手に取り、ぱらりと捲る。地域別に数字が並んでいた。

「王都はともかくとして、辺境の地は随分低いわね」

 ハーレムにいたとき、高度な技術立国として有名な国から嫁いできた妃がいた。

 彼女によると、基礎教育、特に、識字率の高低は産業の生産性に大きく影響するのだという。
 どうしてかと不思議に思ったが、文字が読めればマニュアルを読んで自分でできることも、文字が読めないと誰かが横にいて教えなければならないと聞いて納得した。それに、文字が読めれば遠く離れた場所で開発された技術を文章として伝え、多くの地域に広めることができる。
 だから、彼女の祖国では全国民に最低三年間の義務教育があるとも言っていた。