慰めるように、ウィルフレッドはアリスの頭をポンポンと撫でる。

(あ、いけない)

 アリスはハッとして、「はい。そうですね」と笑顔でその場を取り繕った。
 ウィルフリッドを心配させる気はなかったのに、また心配させてしまったと反省した。
 彼と視線が絡むと、秀麗な美貌がゆっくりと自分に近づいてきて、そっと唇が重ねられた。

「え?」

 アリスは驚いて目を見開く。
 これまで、ウィルフリッドから起きている最中にキスをしてくれたことなど一度たりともなかったから。

(なんで……?)

 ウィルフリッドはアリスに、愛は望むなと言った。ならば、このキスはどういう意味なのだろうか。
 呆然としてウィルフリッドを見上げると、彼はハッとした顔をしてアリスからさっと目を逸らした。

「俺は仕事に戻る」
「はい。行ってらっしゃいませ」

 アリスは寝室から出て行くウィルフリッドの後姿を見送る。
 右手の指先で自分の唇に触れる。まだ、彼の柔らかな唇の感触が残っている気がした。