あのときはウィルフリッドが異能を暴走させたのではないかという疑いが濃厚だったが、今回のアリスの件に関しては同行すらしていない。それに、あの吹雪を収めたのはウィルフレッドであり、異能は暴走させていない。

 それに、気になることがもうひとつ──。

「お時間が大丈夫なら、今ご説明しますがどうしますか?」

 ロジャーがウィルフリッドに尋ねる。

「では、今聞こう」

 ウィルフリッドは応接用のソファーに座り、ロジャーにも座るよう顎で向かいのソファーを指す。ロジャーは勧められるがままに、そこに座った。

「アリス妃が外出された日ですが、気象台の者の報告によると朝から天気は晴れ。多少の雲は出ていたものの、風は穏やかでした」
「ああ、そうだな」

 ウィルフリッドは相槌を打つ。
 あの日は外出するアリスに『晴れていてよかったな』と声を掛けた記憶がある。少なくとも、王宮の付近は晴れていた。

「同行した近衛騎士によりますと、行きは天気もよく何も問題なかったものの、帰りにあの事態に見舞われました。奇妙なことに、吹雪に襲われる直前まで、誰も天気の急変に気付かなかったそうです」
「誰も?」

 ウィルフリッドは眉根を寄せる。
 システィス国はその気候から、国民は誰しもが猛吹雪の恐ろしさを知っている。そのため、冬場の天気には気を配ることが幼い頃から習慣化されているのだ。万が一吹雪のサインを見逃すと、命を落としかねないからだ。

 それなのに、四人もいた近衛騎士が誰ひとりとして天候の変化に気付かなかったことに、強い違和感を覚えた。