ロジャーが窓の外を眺めながら、感嘆の声を上げる。

(特に異常は感じないな)

 ウィルフレッドは自分の右手を眺める。右手はウィルフレッドの意思に合わせ、開いたり閉じたりした。

「ロジャー。アリスが吹雪に見舞われた日のことだが、同行した騎士達への聴取は終了したか?」
「はい。まさにちょうど報告書がまとまったところです」

 ロジャーは手に持っている書類をウィルフリッドに見せるように、掲げる。

 アリスが外出中に局所的な吹雪に見舞われたのは、数日前のこと。全身に雪を被った近衛騎士が助けを求めて王宮に駆けこんできたときは、本当に肝が冷えた。
 会議を中断して急遽助けに行って最悪の事態は逃れたが、ウィルフリッドにはどうにも解せないことがあった。

(なぜ急に、アリスがいた場所だけが局所的に猛吹雪になったんだ?)

 もちろん、天気の影響でたまたまそうなったということも否定できない。しかし、ウィルフリッドの脳裏によみがえるのは、十三年前の忌まわしい記憶だ。

(父上と兄上が亡くなったときと、同じだ)

 十三年前のあの日、ウィルフリッドは父と兄と共に視察へ向かった。
 その道中、晴天だった天気が急変し、突然の猛吹雪に見舞われた。吹雪対策をしていなかったウィルフリッド達一行はなすすべなく立ち往生し、ふたりは帰らぬ人となったのだ。