ウィルフリッドが片手を天に向けると青白い光が放たれ、その吹雪は掻き消えた。

(綺麗……)

 アリスは朦朧としながらも、空を見上げる。
 安心したせいか、気づけば意識は闇に飲まれていた。




 結局、アリスはその後高熱を出して三日間も寝込んだ。
 その間、ウィルフリッドは暇さえあればアリスの元を訪ねてきた。

「陛下。その……お忙しいと思いますので、どうぞわたくしのことはお構いなく」

 ウィルフリッドの仕事の邪魔をしている気がして、アリスは恐縮する。しかし、ウィルフリッドは眉根を寄せて首を横に振った。

「俺はアリスのことが心配だから来ているだけだ」
「心配……?」

 アリスはベッドサイドに立つウィルフリッドを見上げる。
 視線が絡み合うとウィルフリッドはふいっと目を逸らしてしまった。

「とにかく、ゆっくり休んでいろ。またあとで様子を見に来る」
「はい」

 アリスは頷く。ウィルフリッドが出て行ったあと、さっきの言葉の意味を考える。

(近い立場の人が体調を崩したから心配してくれているだけ? それとも、陛下にとってわたくしは思わず心配してしまうほど大きな存在になった?)

 どちらなのかは、アリスにはわからない。けれど、アリスの中でウィルフリッドの存在が日増しに大きくなっていっているのは確かだった。

「陛下。そんな態度を取られると、期待してしまいます……」

 アリスはひとり、呟く。
 あと一歩の距離を踏み込めない。けれど、いつかウィルフリッドの心の壁を全て取り払える日がくればいいなと思った。