すぐにエマが窓を閉めたが、風が強く吹き込んだせいで車内の気温はぐっと下がっていた。

(寒い)

 アリスは自分の体を両腕で包み込むように抱きしめる。
 風がますます強くなり、馬車をガタガタと揺らした。このまま倒れてしまうのではないかという恐怖がアリスを襲う。

(怖い……)

 アリスを励ますように、エマが彼女の体を抱き締める。

 次の瞬間、バーンとまた大きな音がして氷が馬車の窓に当たり、ガラスが割れた。アリスは両腕で頭を覆う。猛烈な風と雪が車内に入り、あっという間に座席を白くしてゆく。

(王妃殿下をお守りしろ!)

 近衛騎士達が叫ぶ。しかし、アリスを守ろうとする彼らもまた吹雪対策などしていないのだから、下手すると死んでしまう。

(わたくし、このまま死んじゃうのかしら?)

 意識が朦朧としたとき、「アリス!」と叫ぶ声が聞こえた。あれほどの吹雪が一瞬で収まり、アリスの体は力強く抱き締められる。うっすらと瞼を開けると、会いたかった人がいた。

「陛下?」
「もう大丈夫だ。城に戻ろう」

 そのとき、再び辺りに吹雪が押し寄せる。

「ちっ! またか」