今までの人生で一度も見たことがない景色に、なんだか不思議な気分だ。
 馬車は順調に進み、アリスは心地よい振動に揺られる。毛皮のコートの暖かさも相まってうつらうつらとしていると、ふいにバーンと馬車のドアを激しく叩く音がした。

「何?」

 アリスはハッとして目を覚ます。薄暗く感じて外を見て驚いた。

「これは……雪?」

 窓の外では、大粒の雪が激しく降っていた。それこそ、数メートルの距離にいるはずの、近衛騎士の姿すら見えないほどだ。アリスはとっさに、馬車のドアノブに手をかける。

「アリス様、外に出てはいけません。吹雪です」

 一緒に馬車に乗っていたエマが咄嗟にアリスの手を止める。

「吹雪?」

 吹雪という現象があることは知っている。風が強く吹き、雪が激しく降ることだ。こんなにも強烈な風と雪なのかと驚いた。

 コンコンコンと馬車の窓を叩く音がする。外から、同行した近衛騎士が呼んでいた。黒いはずの制服は雪で真っ白になっている。エマは窓を数センチだけ開けた。その瞬間、猛烈な風と雪が車内に吹き込む。

「突然の猛吹雪で馬車が動けません。王宮まですぐなので、助けを呼びに行ってまいります」
「わかりました」

 アリスは頷く。