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 王妃にはいくつかの大切な役目がある。
 そのひとつが貴族の夫人たちと社交を図ることで人脈と人望を作り、夫である国王を陰から支えることだ。

「ふう。思ったより遅くなっちゃったわね」

 アリスは今日、国内の有力貴族のひとりに招かれ、お茶会に参加した。アリス以外にも何人か参加しており彼らの話が盛り上がってしまったせいで、予定より一時間も帰るのが遅くなってしまった。

「そうですね。それにしても、今日のイリス様は酷かったと思います。アリス様の前のご結婚のことを、他の夫人たちもいる場で話すなんて──」

 ご機嫌斜めな様子なのは、同行してくれたエマだ。
 エマが怒っているのには理由がある。今日のお茶会に参加していた、ヴィクターの妻であるイリスが突然、アリスのハーレムでのことを話題に振ってきたのだ。

 イリスの姉がアリスと同じハーレムにいたという話の流れからだったのだが、正直人のいる場所ではあまり触れてほしくなかった。

「まあ、仕方がないわね。イリス様には今後は発言に気を付けていただくことにしましょう」

 アリスは馬車に座る自分の体を見下ろす。体全体をすっぽりと包むのは、先日ウィルフリッドからプレゼントされた貂の毛皮のコートだ。

「暖かい」

 アリスは毛並みを撫で、笑みを零す。システィス国のことを知り尽くしたウィルフリッドが選んだだけあり、このコートはアリスが持つどのコートよりも格段に暖かかった。

(陛下には帰ったらお礼を言わないと)

 アリスは窓の外を見る。はるか遠くまで青空が広がり、遠くの白い山脈がよく見えた。

(本当に真っ白になるのね)