アリスは慌てて平静を装い、エマに朝のあいさつをする。エマはアリスの顔を見て、首を傾げた。

「お顔が少し赤いですが、暑いですか?」
「ううん。そんなことないの!」

 アリスはぶんぶんと首を横に振る。そして、言われてみれば部屋が暖かいことに気づいた。

 アリスは部屋の片隅に置かれた暖炉を見る。火は煌々と燃え盛っていた。夜間は火災を防ぐために暖炉の火は小さくされるので、きっと朝になってから薪を足したのだろう。

「暖炉の火を足してくれたのね。ありがとう、エマ」

 アリスにお礼を言われて、エマはきょとんとした顔をした。

「いいえ。私は何もしておりません」
「え?」

(じゃあ、陛下が朝起きてから足してくださった?)

 エマがやっていないなら、ウィルフリッドがやったとしか思えない。

(もしかして、わたくしが寒がりだから?)

 アリスの寒がりに呆れながらもさりげなく気遣ってくれる優しさに心がほっこりとする。
 一方のエマは、アリスのためにてきぱきと朝の準備を整えていた。お湯とタオルを用意すると、いつものように暖炉の近くに設置する。

「ご用意できました」
「ありがとう」