あの事故の夢を見るたびに、父と兄が自分を恨んでいるのではないかと良心の呵責に苛まれる。

(俺にもっと力があれば、もっと異能を操る能力が高ければ、父上と兄上は助かったのに)

 ウィルフリッドを襲うのは、自分の能力の低さへの絶望と、あのとき視察について行くと言ってしまった自分の浅はかさへの懺悔の思いだ。

 だが一方で、アリスは何も悪くない。たまたま能力が高かったゆえにウィルフリッドの目に留まり、こんな雪深い辺境の国に嫁ぐことになった。
 嫁いだ初日に子供を持つことも愛されることも諦めろと言ったウィルフリッドの言葉は、本当はアリスではなく彼自身に向けた言葉だ。

「彼女に対しては悪いことをしたな」

 せめて、ここでの生活は不自由のないものにしてやりたいと思う。好きな男ができたなら離縁にも応じるつもりだ。
 だが、ウィルフリッド自身はこの呪いともいえる呵責感から一生逃れられないだろう。

「頭がおかしくなりそうだ」

 ウィルフリッドは両手で頭を抱えてぼそりと呟くと、銀色の髪を掻きむしる。

(もういっそのこと、おかしくなってしまえばいいのに──)

 出口の見えない苦しさで、気を張っていなければ今にも押し潰れてしまいそうだった。