(たしか、また父上と兄上の最期の夢を見て──)

 自分がアリスを引き留めたことも思い出し、頭が真っ白になる。

(夢じゃなかったのか)

 情けない姿を見せてしまった羞恥から、耳が赤くなるのを感じる。
 アリスはいつもウィルフリッドに笑顔で接し、決して彼を怖がったりしない。最初は煩わしく思っていたのに、いつしかアリスの笑顔を見ると、心が安らぐようになっていた。

(俺は──)

 ウィルフリッドはぐっと拳を握る。
 ずっと自分の気持ちを誤魔化してきたが、ウィルフリッドはアリスに惹かれている。彼女を抱き寄せて心から愛することができたら、どんなに幸せだろう。その欲望は日増しに強くなる一方だ。

 アリスはウィルフリッドの妻なのだから、本来であれば彼が彼女をどう扱おうが、自由だ。

(いや)

 そこでウィルフリッドは頭を横に振る。

(俺は幸せになどなってはならない。幸せになる資格などない)

 ウィルフリッドは今の人生を、自分への罰だと思っている。
 十二歳のウィルフリッドを襲った突然の悲劇。いや、悲劇と言うのもおこがましい。
 国王と王太子を殺したのは、ウィルフリッド自身だ。自覚がないだけで、あの事故の原因はウィルフリッドが異能を暴走させたことである可能性が高いのだから。