結局、ウィルフリッドは十分ほどで目を覚ました。上から顔を覗き込むアリスの顔を見上げ数回目を瞬かせ、ハッとしたように飛び起きる。

「これは一体⁉」

 動揺したように辺りを見回し、自分の持っていた資料がテーブルに置かれているのを見つけると額に手を当てた。眉間にしわが寄り、不機嫌そうだ。

「寝てしまったのか」
「はい。わたくしがここに来たときには既に。お疲れのようですが、すこしすっきりしましたか?」

(側にいてほしいと陛下から言われたことは、黙っていたほうがいいわよね?)

 アリスがそういうと、ウィルフレッドは記憶を辿るように視線をさ迷わせる。そして、はあっと息を吐いた。

「少し気が緩んでいたようだ。俺は仕事に戻る」
「はい。行ってらっしゃいませ」
「……迷惑をかけたな」
「いいえ。全く迷惑ではありません。お体を大切にしてくださいね」

 アリスは立ち上がって、ウィルフリッドの背中に向かってぺこりとお辞儀をする。

(あら?)

 心なしか、髪の合間から覗くウィルフリッドの耳が赤い気がしたのだ。

(もしかして、照れていらっしゃる?)

 眉間に寄った皴と少し機嫌が悪そうな表情は、バツが悪いのを隠すためだろう。
 意外な一面に、アリスは頬を綻ばせる。

(それにしても、陛下はきちんと眠れていないのかしら?)