「きゃっ、陛下⁉ え? もしかして、寝ていらっしゃる?」

 ちょうどアリスの膝に頭を置くように倒れ込んだウィルフリッドは、眠っているように見えた。

(もしかして、今のは寝言?)

 側にいてくれだなんて言われてどきどきしてしまったが、寝言であれば納得だ。アリスと誰かを勘違いしていたのかもしれない。

 アリスは自分の膝の上に頭を乗せて眠るウィルフリッドの顔を覗き込む。ウィルフリッドは規則正しい寝息を立てていた。

「よっぽど疲れていらっしゃるのね。寝かせておいて差し上げましょう」

 アリスはウィルフリッドの寝顔を見つめ、彼が魘されていないことにほっと息を吐く。額にかかった前髪を指で避けてやると、美しい銀髪はさらりと横に流れ、ウィルフリッドの顔がしっかりと見えた。

「綺麗なお顔」

 寒い地域に住んでいるからだろうか。男性にしては白い肌はシミひとつなく滑らかだ。そのくせ、決して女々しく見えるわけではなく、むしろ精悍な印象を受ける。高い鼻りょうはまっすぐに通っており、整った造形はまるで美術館に置かれた彫刻のようだ。

 ウィルフリッドを膝枕したまま本を読んでいると、ふいに部屋のドアをノックする音がした。

「陛下。そろそろお戻りに──」

 ドアを開けたのは、ウィルフリッドの側近──ロジャーだ。ロジャーは部屋にアリスもいることに気づくとハッとした表情をし、ウィルフリッドがアリスの膝に頭を預けてすやすやと寝ている姿を見て目を丸くした。

 ロジャーと目が合ったアリスは、もう少しだけ寝かせてあげてほしいという意味を込めてそっと人差し指を口元に寄せる。ロジャーはアリスが言わんとしていることをすぐに理解したようで、口元に笑みを浮かべるとドアを閉じた。