◇ ◇ ◇

 アリスがこのリビングルームに来たのは十分ほど前のこと。ソファーで本でも読もうとそこに行くと、先客がいた。

(陛下? 珍しい)

 ウィルフリッドは書類を片手に持ったまま、眠っていた。彼がうたた寝しているところなどこれまで一度も見たことがなかったので、アリスは意外に思う。

(起こしたら申し訳ないから、部屋に戻ろうかしら?)

 そう思って戻ろうとしたそのとき、「うっ」と苦し気な声がウィルフリッドから漏れた。

「……陛下?」

 アリスは心配になってウィルフリッドに歩み寄る。目は瞑っているので眠っているようだが、表情は険しい。額にはびっしょり汗をかいており、苦し気な声がときおり口から漏れていた。

(すごい汗。悪い夢でも見ているのかしら)

 アリスは持っていたハンカチを取り出すと、ウィルフリッドの隣に座り、彼の額の汗を拭く。拭き終えたのでそっと腕を引くと、それを追いかけるようにウィルフリッドの手がアリスの手首を掴んだ。

「陛下?」

 びっくりしたアリスはウィルフリッドの顔を見る。

「行くな。側にいてくれ」

 胸がドキッとする。
 薄っすらと目を開けたウィルフリッドはそれだけ言うと、がくんとアリスのほうに体ごと倒れた。