それからは怒涛のようだった。

 妃たちの実家には既にエルゴの手配した使者たちにより離縁による王室離脱と実家に戻す旨が知らされていたようで、数日後には故郷アーヴィ国から迎えの馬車が到着した。

 荷物を整理していると、クローゼットの奥から緑色のラベルが貼られた小さな茶色い瓶が出てきた。

「あ、これ……」

 いつしか、アリスがあまりにもクリスから相手にされないことに同情した妃が分けてくれた催淫剤だ。アリスはその小瓶をじっと眺める。

「もうわたくしには必要ないわね」

 もう、というか、これまでも必要なかったのだがそこは触れずにいてほしい。アリスは小瓶のふたを開けるとそれを下水に流し、瓶はごみ箱に捨てる。すっきりとした気分で迎えの馬車の元に向かった。

「アリス様、絶対に手紙送ってね」
「もちろんよ。ケイト様も元気でね」

 まだ故郷からの迎えが到着していないケイトの首に、アリスは両腕を回して抱擁する。ハーレムにも夫にも何も未練はないけれど、仲良くなった友人と離れるのはとても寂しい。

「いつか、わたくしの国に遊びに来てね」
「ありがとう。アリス様も是非わたくしの国に来て」
「絶対に行くわ!」

 アリスは力強くうなずく。このハーレムにいた七年間、アリスは様々な国から嫁いできた妃たちと仲良くなり、彼女らの故郷の話を色々と聞いた。ケイトは妃の中でも一番の親友だったので、彼女の故郷──ローアン国の話は特に印象に残っている。