ちらほらと舞っていた雪は間もなく、数メートル先も見えないような猛吹雪に変わる。
 いくらシスティス国が雪が多い国だとはいえ、この季節にこんな吹雪が起きるなど普通ではない。

『陛下。馬車が動きません!』

 外にいる近衛騎士達が必死に叫ぶのが聞こえた。近衛騎士の黒い制服は、雪で真っ白になっていた。

『陛下!』

 近衛騎士の声に、父はどこかぼんやりとした様子で外を見る。

『父上?』

 どこか様子がおかしい。
 そう思った次の瞬間には、父が内側から馬車のドアを開けていた。ドアが風で押されて大きく開き、そこから猛烈な風と雪が車内に降り注ぐ。

『うぐっ!』

 咄嗟に両腕で顔を覆い、隠す。目が開けられないような猛吹雪は、ウィルフリッドが人生で経験した中でも記憶にないほどだった。

『陛下と王子殿下達をお守りしろ!』
『誰か、上着を』

 近衛騎士達が叫んでいるのが聞こえた。寒さで歯が鳴り、体がぶるぶると震える。

(なんとかしないと、全員死ぬ)

 直感的にそう悟った。真冬の装備をしてきたのならまだしも、全員薄着で雪にも寒さにも備えていない。