橋は父の言葉通り、素晴らしいものだった。大きな石をアーチ状に積み上げた物が幾重にも続き、対岸まで繋がっている。外国で実用化された工法で、わが国で取り入れられたのはこの橋が初めてだという。

(こんな素晴らしい物が造れるのか)

 子供心に驚いた。

 事件はその帰り道で起きた。馬車に揺られながらうとうとしていると、急に雲が分厚くなり周囲が暗くなる。やがて、気温が急激に下がり、馬車がガタガタと大きく揺れ、窓に固い物がぶつかる音までし始めた。

『なんだ?』

 父が訝しげに窓を見る。

『父上、氷壁です!』

 兄上が叫ぶ。

(氷壁?)

 眠りかけていたウィルフリッドは咄嗟に目を覚まし、窓に顔を寄せる。驚いたことに、辺りには雪が降っていた。身を乗り出すと、兄が言う通り道が氷で塞がれている。
(嘘だろう? 今の季節に?)