システィス国の冬は厳しい。寒くなると雪が降り積もり、地面は真っ白になりやがて凍り付く。そのため、道路工事などは夏の間に実施するのが鉄則なのだ。

(いや、工事区間だけ俺が異能を使って氷を溶かせば、工事可能か?)

 ウィルフリッドが持っている異能は、水の精霊の加護を用いたものだ。凍り付いている大地を溶かすことも、一時的に天候を操って雪を止ませることも可能だ。ただ、異能の力を使うとその代償に体力が奪われるので、あまり広い地域で長時間能力を使うことは無理だ。

(異能か……)

 極寒の地の王でありながら、ウィルフリッドは雪が嫌いだ。降りしきる雪を見ると、どうしてもあの日のことを思い出すから。


 ──あれは、ウィルフリッドがまだ十二歳の頃だった。日増しに暖かさが増し、大地には花が咲き乱れる。システィス国は短い夏を迎えようとしていた。

『今日は、郊外の町に視察に行く。新しい橋ができたんだ。ウィルも行くか?』

 国王という立場上いつも多忙で滅多に一緒に出掛けることができない父が、ウィルフリッドを誘う。
 なんでも、郊外を流れる大河に馬車も通れるような大きな橋が架かったのだという。今日はその視察に王太子である兄を連れて行くようで、ウィルフリッドにも声を掛けてくれたのだ。

『うん、行く!』

 そう返事するのに、ためらいはなかった。
 国を平和に導く国王の父と、民の期待を一身に背負う王太子の兄。ふたりはウィルフリッドにとって憧れの存在であり、誰よりも尊敬していた。だから、一緒に行こうと言われてとても嬉しかったのだ。