アリスと仕立て屋に行った数日後のこと。ウィルフリッドが執務室で仕事をしていると、トントントンとドアがノックされた。

「陛下。そろそろ休憩なさってはいかがですか? 昼食をお摂りください」

 顔を見せたロジャーにそう言われ、ウィルフリッドは時計を確認する。いつの間にか、午後の三時近かった。朝から集中していて、食事を摂るのを忘れていたのだ。

「軽くつまめるものを用意するように伝えてくれ」
「かしこまりました。ここ数日根を詰めていらっしゃいますので、あまり無理をなさらないでください」
「わかっている」
「ずっと執務室に籠っているのも体に毒です。食事のときぐらい、場所を変えませんか? 気分転換になって、仕事の効率も上がるかと」

 ウィルフリッドは迷った。正直言うと、少しでも仕事を進めておきたい。だが、ロジャーの言う通り根を詰めすぎると仕事の効率が下がるのも確かだ。

「それもそうだな。ただ、資料を読みながら食べたいから食事はリビングスペースに運ぶように伝えてくれ」
「かしこまりました」

 ロジャーは胸に手を当ててお辞儀すると、部屋を退室した。タイミングを見計らって、ウィルフリッドはリビングルームへと向かう。ソファーに体を預けて書類を確認していると、メイドが皿に載せた軽食を運んできた。

 ウィルフリッドはそれを摘みながら、書類──ローラン国に派遣した使者の報告書を読み進める。

(アリスが提案した地下水道の技術は、確かにわが国でも活用できそうだな。だが、設計と地盤調査の期間を考えると、今年はもう間に合いそうにないな)