(手……)

 初めてウィルフリッドから手を握られた。ウィルフリッドを窺い見ると、彼と目が合う。

「きみは放っておくと、また転びそうだ」
「お気遣いありがとうございます」

 もしかして、アリスのことを心配してくれたのだろうか。
 きゅっと力を込めて彼の手を握ると、僅かに握り返された気がした。

(結婚式以外で夫と手を繋ぐのって、初めてだわ)

 思えば、夫に服を見立ててもらうことも、手を繋ぐことも、庭園に二人で出かけるもの初めてだ。当たり前のように世の中にあふれた光景は、アリスにはとても遠い世界だった。

「どうした? 嬉しそうだな」

 ウィルフリッドが怪訝な顔でアリスを見る。

「たくさんの初めてがあって、嬉しかったのです。陛下、ありがとうございます」

 アリスは花が綻ぶような笑みを浮かべる。
 なんだか心が温かくなったような気がした。


 ◇ ◇ ◇