『過去に千輪(ハイエナ)と決闘したことがある。決闘とは教練場での実力を測るもので、順位が下の隊員が自分の順位の1個上の順位の隊員と戦い順位を競う。千輪(ハイエナ)との決闘は俺が一位で千輪(ハイエナ)が二位の時に行った。俺は苦戦していた。異常なスピードと持久力。なかなか攻撃は当たらない。ましてや依代(よりしろ)の刀まで弾かれ、なんとか耐え忍んでいた。耐えてはいたが顔にもろに拳を入れられ、吹っ飛んだ俺。吹っ飛んだ先にたまたま刀があり、再び攻撃をしようとした千輪(ハイエナ)を[春嵐(はるあらし)]でめったボコにした。結果俺は勝てたが正直納得はいっていない。しかしそれ以降俺と千輪(ハイエナ)の決闘はなかった。千輪(ハイエナ)は俺の防御術を盗み三位になった隊員からの決闘で勝利をしていた。しかし、なにか浮かない顔していた。』
『俺は教練場での千輪(ハイエナ)との決闘以降、修行を重ね強くなったはずだ。千輪(ハイエナ)とやり合っても勝てると思っていたが、もうそれは難しいかもしれない。だってあいつは隊長の技術を盗んだからだ。』
煙が晴れるとそこには拳から白いオーラが激しく揺れる千輪(ハイエナ)の姿があった。

そんな姿を見た隊長は笑みをみせ「舐めていたよ!千輪(せんり)!もっと楽しませてくれ!」と言った。千輪(ハイエナ)がいつものように指を銃の形にして魔法を放った。

[火玉(ひだま)/指先から火の玉を発射する魔法]

しかし[火玉(ひだま)]は隊長の[ターゲット]によって吸われていった。千輪(ハイエナ)以外はその行為になんの意味があるのか分からなく唖然としていた。そんなこともお構いなしに千輪(ハイエナ)は[火玉(ひだま)]を打ち続けた。それにしびれを切らしたのか、隊長は拳から白いオーラを出しながら千輪(ハイエナ)に急激に接近した。接近するやいなや千輪(ハイエナ)の足に白いオーラが出てきて隊長の接近を許さなかった。隊長から逃げ回っている時も[火玉(ひだま)]を打ち続けていた。俺は『いったい何が目的なんだ。魔法は封じられているのにも関わらず、当たるはずもない魔法を"吸わせている"……?!俺は1つの仮説が思いついた。それは[ターゲット]には限界がある。限界を超えさえすれば何かしらのデメリットが発生し、千輪(ハイエナ)が有利な立場になる。それなら、[火玉(ひだま)]を打つことにも納得がいく。』と思っていると、隊長が[ターゲット]をやめた。限界が来たのだろうか。千輪(ハイエナ)はそれを見ると足にあった白いオーラを拳に移し、一気に距離を詰めつつ、拳を振りかざした。
千輪(ハイエナ)の拳が隊長の腹を殴るとドンという重い音がグラウンドに鳴り響いた。人の体から出るような音では無いと思ったが音の元は隊長の腹部からだった。隊長の体は全身から白いオーラが激しく揺れていた。すると隊長は「千輪(せんり)。お前の目的は[ターゲット]の限界値を越えさせ、俺が弱ったところを一気に叩くつもりだったのだろうが、限界値を超える前にやめてしまえば今まで吸ったものは俺のエネルギーとして、魔力が関係するものは俺の魔力として蓄えられる。俺にも蓄えられる限界があって、それを超えてしまうと体が持たなくて爆散するけどな。今はエネルギーと魔力両方とも9割ぐらい蓄積されたかなぁ。さぁ完全回復した俺とボロボロの君どこまでやりあえるかな?」と千輪(ハイエナ)を煽った。

すると「やってやるよ」と千輪(ハイエナ)は返した。俺は『ヤバい、千輪(ハイエナ)の悪い癖が出た。』と焦った。千輪(ハイエナ)がハイエナと呼ばれるようになった理由にはもうひとつある。それは、頑固なところだ。諦めることを嫌う。体が動くまで戦う。そんなことを教練場の時にやっていた。体が動かなくなった時は3日ぐらいは寝込んでいたと思う。俺は慌てて止めに入ろうとしたが隊長の圧で全く動けなかった。すると、横にたっていた癒月(ゆづき)が「隊長ぉ!千輪(せんり)さんを止めてくださーい。諦めの悪い人なんですぅ!そのままだと倒れて2、3日は目を覚ましません!だから、止めてくださーい!」と、震えながら叫んでいた。
その声が届いたのか、隊長は千輪(ハイエナ)に逃げる隙もなく背後に周り首を叩いた。すると千輪(ハイエナ)は死んだかのようにその場に倒れ込んだ。
千輪(せんり)の戦闘不能により、俺の勝ちだ。これにて模擬試合を終わりにする。少し休んでからみんなで飯にしよう。」と隊長が言った。あたりは薄暗くなっており夕飯時だった。