模擬試合の前にストレッチをさせてもった。『本心は模擬試合の作戦を考える時間が欲しかっただけだが、もらったからには有意義につかわせてもらおう。まずは、黒龍(くろたつ)隊長の魔法を整理しよう。わかっているのは[ターゲット]という指定してものを吸い込む魔法。最強かと思うがおそらく吸う量にも限界がある。さっきの模擬試合の氷や傷を吸い込んだとき「一気に吸い込みすぎたな。」といっていたからだ。その限度を超えたらどうなるのか。一つは魔法が使えなくなる。二つ目に思いつくのが身体能力の低下。もしくは両方だと思う。これはあくまでも推測にすぎないが、ターゲットに指定した指定物をたくさん吸い込ませ、弱ったところを一気に叩く。指定物は俺に関するなにかだ。一番有力なのは「()魔法」だろう。でも待てよ。魔法の同時発動は不可能なのにターゲットを使用している時はどうしてるんだ?まさか、身体能力を活かした戦闘スタイルなのか。確かに隊長クラスの魔力は有してる訳だし気をつけないとな。教練場の時、教官が"身体能力は魔力残量に比例して大きくなる"と言っていたな。そして"魔法の同時発動も不可能"とも言っていた。魔法を発動するには"イメージとイメージに合った魔法因子(まほういんし)が揃うことで、普段は脳には巡らない魔力が自然流れ込み、それを消費してイメージを具現化させる"これが魔法の原理である。魔法を封じられても身体能力なら俺にも勝機はあるはずだ。』
 
 作戦が整った俺は黒龍(くろたつ)隊長よりも先にグラウンドに立った。それを見た黒龍(くろたつ)隊長はゆっくりとグラウンドに立った。俺の目の前に立った黒龍(くろたつ)隊長は俺に質問してきた。「荒切(あらきり)千輪(せんり)どっちが強いのかな?」俺は「悔しいですけど、荒切(あらきり)のほうが教練場だと上でしたね。」と言うと、黒龍(くろたつ)隊長は少しガッカリした様子を見せた。ため息をついたあと黒龍(くろたつ)隊長は「模擬試合 黒龍 有一(くろたつ ゆういち)千輪 大地(せんり だいち)用意 はじめ」といい、勝負の火蓋が切って落とされた。
 いきなり黒龍(くろたつ)隊長がしかけてきた。「黒龍(こくりゅう) ターゲット ”()魔法”」俺は『やっぱりそう来たか』と思い魔法を使おうと、手を握り人差し指と親指だけを伸ばし、指鉄砲の形を作った。『隊長との距離は約5m。恐らく、この距離でも魔法は吸われるのだろう。』と思いながら俺は瞬きをした。次の瞬間には、腹部に強烈な痛み。そして隊長との距離が大きく開いていた。何をされたのか分からなかった。あまりの痛みに俺は意識が飛んでいた。その間、俺は教練場でのことを思い出していた。『千輪(せんり)隊員、君は"空間把握能力(くうかんはあくのうりょく)"が極めて高く、見ただけで物の長さなどを把握出来たり、攻撃をかわすことも出来る。だからなるべく周りをよく見て行動するように。あと、もうひとつ君には武器がある。君は……』ここで目が覚めた。2秒ほどか気を失っていた。俺は一瞬で距離を縮められ、腹部を殴られたのだろう。再び、それが来ると思い俺は慌てて警戒した。『今度は目を離さないように。さっきは瞬きのあの一瞬、目を逸らしたから、あんなことになったんだ。今度はそうはさせない。』緊張が走る。来るっと分かった時には隊長の拳が目の前に来ていた。しかし、俺は持ち前の空間把握能力を活かし、見事顔面に来る拳をかわしカウンターを入れようとした。その時、俺はさっきの教練場の続きを思い出していた。『君には"隊長クラスの魔力"がある』という教官の言葉を俺は思い出しながら黒龍(くろたつ)隊長にカウンターをいれた。
 
 『戦える。黒龍(くろたつ)隊長に勝てるかもしれない。』とカウンターを入れた俺は背徳感を感じていたが、それと同時に違和感も感じた。確かに俺の拳は黒龍(くろたつ)隊長の顔を捉えたはず。けど感触が違う。顔と言うより、手のひらに当たったような感触だった。黒龍(くろたつ)隊長は俺のカウンターをもらって3m程さきにしりぞいていた。その隊長の様子を見るやいなや、また俺は教練場のことを思い出していた。『いいか千輪(せんり)隊員。お前は魔法の技術が低いがその代わりに驚異的な身体能力を有している。それに伴って君には特別に2つの技を習得してもらいたい。出来れば、見本を見せたかったがそれらを使える人が教練場内にはいない。ので、口頭での説明になる。1つは"魔力集中(まりょくしゅうちゅう)"だ。簡単に言うと魔力を1箇所に集めることで超人以上の力を得る。例えば、魔力集中を拳に集めれば、とてつもない威力の打撃を与えられる。これは魔力を一定量ないと使えない。まず自身の魔力を操作することができないと使えない。これに成功すると魔力集中をしているところに限り、白いオーラが見える。そして2つ目、"魔力集中"と"魔法"の同時発動。"マルチ魔法(まほう)"だ。これを使える人は数少ない。理由は簡単。魔力を2箇所で使っているからだ。魔法はイメージを作り"脳"に魔力を流し込み消費している。魔力集中は集めている場所に"一定量の魔力を維持"しないといけない。難易度は高いがこれを君には習得してもらいたい。』
 
 結局、俺は習得どころか習得の糸口すら見いだせなかった。しかし、自分の目の前には両腕に白いオーラをまとう黒龍(くろたつ)隊長の姿と後ろには黒い龍が口を開けいた。そう、俺ができなかったことを黒龍(くろたつ)隊長はやってのけていたのだ。
 すると黒龍(くろたつ)隊長が「千輪(せんり)、君の拳は俺じゃなきゃ重症じゃ済まないレベルだぞ。気をつけろ。そしてこれが魔力の使い方だ」と言うと、白いオーラが腕から足に移動した。来ると思った時にはもう、俺は顔面を握られそのまま地面に押しつ蹴られていた。

千輪(せんり)視点→荒切(あらきり)視点

 俺は2人の戦いを見て呆気にとられていた。なにせ模擬試合が始まってから20秒ぐらいしか経っていないからだ。『最後の隊長の白いオーラはなんだったのだろうか。教練場では教わらなかった。"ターゲット"を使っているから白いオーラと魔法は関係ない。また別の何かだ。』と考えていると二葉(ふたば)が「千輪(せんり)さん大丈夫ですかね。煙で何も見えないや。」と言った。他の2人もちょっと心配しているように見えた。さすがにやりすぎだと思っているのだろう。ただ、俺だけは心配なんてしていなかった。むしろ、俺は隊長に同情した。1番見せちゃいけないやつに、魔法以外の技術を見せたということに。だってあいつは千輪(ハイエナ)だからだ。