黒龍(くろたつ)隊長が「グラウンドはそのままでいいな。このまま続けてくれ。」と氷織(ひおり)副長と荒切(あらきり)に言った。両者は承諾し準備を始めていた。俺は荒切(あらきり)のことが気になり様子をうかがうと普段、感情を顔に出さない荒切(あらきり)が怒っているように見えた。

千輪(せんり)視点→荒切(あらきり)視点

 実際、俺はキレていた。『俺は副長が嫌いだ。ここに来たときから。拠点の扉で吹っ飛ばされ、自己紹介では嘘をつく。そんな性根の腐った野郎は俺が叩き直してやる。』と荒切(あらきり)は副長のこれまでの態度にキレていた。そんなふうに思っていると副長が「俺のことが嫌いなのかな?(かたし)くん。」と問いかけてきた。顔に出ていたとでもいうのか。見透かされているような気がして俺は苛立ちを覚えた。俺は「副長、俺はあんたが嫌いだ。だから叩き潰してやるよ。」と言い捨てると、副長は「扉でふっ飛ばしちゃったことまだ怒ってるの?かわいいね。」と煽られた。俺は怒りがピークに達し、腰につけた刀に手をおいた。すると黒龍(くろたつ)隊長が「そこまでにしろ、氷織(ひおり)。そろそろ模擬試合を始めるぞ。」と止めに入ってくれた。俺は深呼吸で冷静になり、模擬試合に備えた。
 副長は俺より先にグラウンドに立って待っていた。準備が整ったので俺もグラウンドに向かった。俺が副長の前に立つと黒龍(くろたつ)隊長が
 「第二回模擬試合 氷織 名(ひおり めい)荒切 鍛(あらきり かたし) よーい始め!」と言い勝負の火蓋が切って落とされた。俺は副長の魔法について分かっていることを整理した。
 『たしか副長の魔法は(こおり)魔法だって言ってたな。氷で思いつくのは凍らされるとか氷柱を落としてくるとかかな。なら、』と考えていると副長が突然「何か考えてるみたいだけど容赦はしないよ。」と言うと副長の背後から円錐状の氷の塊が現れた。俺は慌てて構えた。すると氷が俺めがけて飛んできた。

[氷突(ひょうとつ)/円錐状の氷の塊を出現させ、飛ばしてくる魔法]

俺は飛んでくる氷を

[風間流 奥義 春嵐(かざまりゅう おうぎ はるあらし)/風間流の最終奥義で自身を中心に竜巻のように魔法をだす型]

で防いだ。

俺はすかさず反撃をした。

[風間流 春一番(かざまりゅう はるいちばん)/引っかき傷のような縦に斬撃を地面をえぐりながら飛ばす型]

 斬撃はグラウンドをえぐりながら副長に襲いかかった。すると突然、ガン!!っと大きな音とともに煙が立ち込めた。
 俺は違和感を感じた。『今の爆発はなんだ?[風間流 春一番(かざまりゅう はるいちばん)]に爆発をする要因はない。だとすると副長の仕業か。』
 すると煙の中から「やめてよー、この下には温泉通ってる導管があるからさ。そんなにえぐったら導管に穴が空いて温泉でグラウンドが満たされちゃうよ。まあ、塞いだけどね。」と副長が煙の中から現れた。どうやら地面にある温泉が吹き出し、それを氷で塞ぐときに爆発のように煙が立ち込めたようだ。副長の足元には氷がはっており今も少し煙が上がっている。完全に塞げた訳では無いらしい。さすがに地面をえぐるのはよそうと思った。それなら

[風間流 春疾風(かざまりゅう はるはやて)/魔法をまとい突進していく突きの型]

︎ [風間流 春疾風(かざまりゅう はるはやて)]なら地面をえぐらないと思ったが、副長に向かって突き進んでいる途中でグラウンドが凍っており、滑ってしまった。俺は凍ったグラウンドに倒れこんでいた。それはとても冷たかった。するとコツコツと足音が聞こえた。副長だ。
 副長は「ふふ。もう終わりかな。(かたし)くん。君は俺を叩き潰すとかほざいてたけど、その程度か。すごいダサいね。」と笑いながら見下していた。
 俺は「かかったな!」と言うと同時に副長の足をすくい、尻もちをつかせた。滑る足場だったが俺は踏ん張って構えた。

副長は「やべっ」っといい反撃をしようとしたが、もう遅い「俺の勝ちだ」と副長に言い捨て[風間流 奥義 春嵐(かざまりゅう おうぎ はるあらし)]を放った。
 自分を中心に発動する守りの技で範囲が狭い。けど、範囲に入れさえすれば無数の風の斬撃が襲う。やりすぎたかと思ったが、一瞬で自分の心配をしたほうがいいと思った。
 急激に寒くなったのだ。しかも体も動かない。周りを見渡すことすらできなかった。ただ目の前で傷だらけになって倒れている副長の姿だけが見えていた。数秒後、みんなが目の前に現れた。千輪(ハイエナ)がすごい顔をしていた。

荒切(あらきり)視点→千輪(せんり)視点

荒木(あらきり)はそのまま目を閉じてしまった。荒切(あらきり)氷織(ひおり)副長の

[大氷結(だいひょうけつ)/広範囲を一気に凍らせる魔法]

で全身氷漬けになったのだ。俺は急いで駆け寄って魔法で助けようとしたが後ろから黒龍(くろたつ)隊長に「千輪(せんり)、俺に任せろ。」と言われた。俺はこのあと、黒龍(くろたつ)隊長と模擬試合をするので隊長の情報を少しでも手に入れたいと考え、この場は隊長に任せることにした。
 そして黒龍(くろたつ)隊長が「黒龍(こくりゅう)、ターゲット”氷”」と言うと突然、隊長の背後に黒龍(こくりゅう)が現れた。それは大きく口を開けると氷だけがどんどん吸い込まれていった。

[ターゲット/ターゲットを指定すると、範囲内にある指定物をすべて吸い込む魔法]

 氷だけを吸い込み終わると、さっきまで塞がっていた温泉が吹き出してきた。荒切(あらきり)たちは三重野(みえの)先輩たちに任せ、黒龍(くろたつ)隊長は慌てて「黒龍(こくりゅう)、ターゲット”傷”」というと、グラウンドにあった傷だけでなく、氷織副長の”傷”や拠点の”傷”さえも吸い込んでいった。吸い込まれたところは元通りに戻っていた。指定するものは物体だけではない。概念も指定できると知った。すると「一気に吸い込みすぎたな。」と黒龍(くろたつ)隊長は息を上げて呟いていた。
 そして黒龍(くろたつ)隊長は大きな声で「第二回模擬試合 両者戦闘不能により 引き分けとする。」と言った。俺は黒龍(くろたつ)隊長に近づいて「次は、よろしくお願いします。」と言いうと黒龍(くろたつ)隊長は「あぁ、楽しみだ。」と言い笑みを見せていた。俺も楽しみだった。