それから少し時間をあけて準備が整い、グラウンドに立つ両者の間に黒龍(くろたつ)隊長が立つと
 「第一回模擬試合 三重野 風舞姫(みえの ふぶき)癒月 二葉(ゆづき ふたば) よーい始め!」と言い勝負の火蓋が切って落とされた。先に動いたのは二葉(ふたば)だった。人差し指で三重野(みえの)先輩を指した瞬間地面から木の根っこのようなものが現れた。

[伸縮樹魂(しんしゅくじゅこん)/木の根っこのようなものを自由に操る魔法]

 それを見て三重野(みえの)先輩は「遠慮なくかかってきなさい。」と一言。二葉(ふたば)はその言葉に疑念をいだいたまま攻撃を仕掛けた。根っこが三重野(みえの)先輩をめがけて伸びていった。根っこの先は鋭利で簡単に人をつり抜けると思った。
 当たるかと思った次の瞬間、三重野(みえの)先輩は突然、3mほど上空に飛んで根っこをかわした。しかし、飛んだと思った時には三重野(みえの)先輩は落下し伸びた根っこに思いっきり着地していた。落下した勢いは強すぎてグラウンドに亀裂が入るほどだった。観戦していた俺と荒切(あらきり)があっけにとられるのを横目に氷織(ひおり)副長が解説を入れてくれた。
 「風舞姫(ふぶき)ちゃんの魔法は重力(じゅうりょく)魔法でね、重力を操れるんだよね。結構強い魔法だよ。」

[反重力(はんじゅうりょく)/触れた生き物や物体の重力をなくしたり、重くしたりする魔法]

 氷織(ひおり)副長の説明を聞き終えると俺は目線を二葉(ふたば)達に移した。グラウンドを見て俺は違和感を感じた。二葉(ふたば)の根っこの様子がおかしい。どんどんグラウンドに埋まっていくように見えた。すると三重野(みえの)先輩は「私の魔法で根っこを押しつぶしているの。もう動かせないよ。」と言いながら二葉(ふたば)にゆっくりと向かっていく。二葉(ふたば)三重野(みえの)先輩の威厳に負けたのか震えてその場に立ちすくんでいた。二人の距離がどんどん狭まっていく。そして拳が届く距離まで三重野(みえの)先輩は近づいた。しかし、それでも二葉(ふたば)は動こうとせず立ちすくんでいた。完全に戦意喪失している。三重野(みえの)先輩との力量の差やトップバッターというプレッシャーの中、
戦っていた二葉(ふたば)のことなんてお構いなしに三重野(みえの)先輩は容赦なく拳を振りかざし「ギブアップかな?」と問いかけた。二葉(ふたば)は声が出ないようだった。
 「そこまで、第一回模擬試合 癒月 二葉(ゆづき ふたば)の戦闘不能により三重野 風舞姫(みえの ふぶき)の勝利とする。 」と黒龍(くろたつ)隊長が言うと緊張が解けたのか二葉(ふたば)は座り込んで泣いてしまった。そんな二葉(ふたば)の様子を見た三重野(みえの)先輩は慌てた様子で「ごめんね、やりすぎたね。お願い泣かないで。」と慰めていた。
 そんな中、突然氷織(ひおり)副長が「さぁてと、次は俺がいこうか。」と言うと、食い気味に「やらせろ。」と荒切(あらきり)が声を上げた。