尊臣の反応が、怖かった。
無礼者とののしられるか。身の程知らずな者よと嘲笑(ちょうしょう)を浴びせられるか。

いずれにせよ、可依は(おもて)を床板に伏したまま、身体を硬くし尊臣の言葉を待った。

「ほう……これは、予想外の結果だな」

かすかに笑う気配がして、これは後者かと可依が身を縮めたままでいると、顔を上げろとぞんざいな声がかかった。

「まさかとは思うが、お前、俺に情けを交わして欲しいのか?」
「お戯れを申されますなっ!」

相手がこの地を治める豪族の当主、ひいては大神社の主祭(あるじ)だということは、恥辱のあまり頭からすっかり抜け落ちていた。

反射的に叫んだ可依に対し、粗忽(そこつ)者めと激昂(げっこう)し、扇で打たれてもおかしくなかったが。

しかし尊臣は、最初の晩と同じように、喉の奥で笑ってみせた。

「そうだ。お前のその反応が見たかっただけだ。
だが……そうか、つくづく俺は、神に刃向かう宿命(さだめ)をもつようだな」

「え……」

「俺が(まが)つ神を滅する儀を執り行ったのは知っているだろう?」

「もちろん、存じております」

「ならば、神獣(かみ)に刃を突き立てたことも知っているはずだ」