「お(たあ)さま」

突然、自分の手をにぎる童女(めのわらわ)が現れた。
身なりの良い、どこぞの貴族の子女に思われ、可依はとっさに身をかがめた。

「母上様をお探しですか? 失礼ながら、お父上の御名(みな)をお伺いしても?」

参拝か祈祷(きとう)か。
解らないが、父親の名前を知ることができれば遣いをやれる。

可依は、ここが夢の中で、しかも夢占であることも忘れ、そんな現実的な対応をしてしまう。

だが、童女はいたずらが見つかったかのように、可愛らしく首をすくめた。

「お母さま、ここで会ったこと、ないしょね? ───お父さま!」

ふふっと、自分の小さな口を両手で押さえ、直後に走りだした童女の行く先。

(……え?)

由良(ゆら)、何をしている。行くぞ」

厳しい口調ながらも、幼い我が子を慈しむように見守る眼差し。
その、父親と思われる貴族男性。

多少、年齢を重ねたようには見えるが、あれは───。

そう思った瞬間、夢占は唐突に終わりを告げた。
そして、目覚めと共に、可依はすべてを悟ったのだった……。