月が、昇る。暗闇に向かい欠けはじめた月が。

(……困ったわ)

いっそ、夢占が失敗したと告げようか? 養父によれば、尊臣から奉納の品は、まだ届いていないという。

大神社(ここ)を取り仕切る、神官長である養父ですら知らなかった夜更けの(おとな)いは、いらぬ穿鑿(せんさく)を招いた。

(うまくやれなどと……神職が口にして良いものなの?)

慰み者ではなく、夫婦(めおと)の契りを結べなど、生臭いにも程がある。

けれども。

(あの夢見が確かなら──)

結果(こたえ)は、出たか」

無造作に断りもなく御簾(みす)が上げられ、単刀直入に()う声。

仰ぎ見れば、十六夜の月を背にした、涼しげな目元の美丈夫がいた。

「は、い……」

声が、かすれる。
とっさにつこうとしていた嘘が、喉の奥でかき消えてしまう。

その、真実を強引にでも暴きだしそうな強い眼差しに射抜かれたからだ。

眼に宿る力によって、ためらいながら創った虚構の嘘が、くだかれた。

「では、聞かせてもらおうか」

試すように可依を見据えた、黒い瞳から逃れるように、平伏する。

「恐れ多きことにごさいますれば───わたくしめに、ございます」