もっとも、彼のなかで挨拶というものは不要なものらしく、一度たりとも自分を認識された覚えはない。

少々お待ちを、とだけ告げ、可依は筆と(すずり)、半紙を尊臣に渡す。

無駄を嫌う男に、なぜこの時分の訪れなのかと問うのは無粋だろう。

「では、こちらに(いみな)を含め、お名前を。
それと、具体的に何をお知りになりたいのかもお書き添えくださいませ」

すぐに本題へと移った可依を評価したのか、尊臣の薄い唇にわずかに笑みが浮かんだ。

(うら)に明確な答えは求めてはなかったが……興味深い。具体的な回答が出るというのか」

「それは、なんとも。
ですが、依頼主様が漠然としたお考えのもとわたくしを訪ねられた場合、お答えも漠然としたものになるのは確かでございます」

「なるほど。その理屈で行けば、明確な問いには明確な答えが返るはずだな?」

「さようにございます」

結果を解りづらく曖昧(あいまい)に伝えるのが占いの常。
占者の保身に他ならない。

しかし、可依の夢占は正確には『神のお告げ』だ。
便宜上、占いといっているだけで、真偽を問われるいわれはない。

結果(こたえ)はいつ出る?」

「……夢占が行えるのは、望月(もちづき)の晩のみでございますゆえ」