「若からもくれぐれもと頼まれておりますし、北の方である三条(さんじょう)様も素晴らしい御方です。

姫を無下に扱うことはないかと存じますが、それでも───」

母娘(おやこ)を引き離すのは心が痛むと考えているのだろう。

沙雪のこれまでの誠実な態度や行いを見れば、可依の胸中を思いやっての言葉だと解る。

「これは、尊臣様との最初(はじめ)からの取り決めごとなのでございます」

正確には、夢占で見た託宣だが、それは沙雪にいうべきではない。

「ですから、どうぞ、よしなに」

想いをこめ、尊臣を思わす顔立ちの沙雪を見つめたのち、指をついて頭を下げる。

「……分かりました。わたくしも、でき()る限り姫のために尽力いたします。

可依殿も、何かあれば必ずわたくしを頼ってくださいましね」

───こうして、可依のもとから(たま)のような美しい御子は、居なくなった。