不愉快だった。
ドクドクと心臓の辺りを蝕む何かがあった。

深く呼吸を繰り返しても嫌なソレは消えてはくれない。

大した会話もしたことのないただのクラスメイトに、なぜあんな風に勘繰られなければならないのか。

夏休みの俺の「失態」がいけなかったことは理解できる。
今まで見せていなかった顔、態度を露呈したことで自分がそれを引き出してしまった、
「特別な存在」なんだと勘違いしてしまうのも無理はない。
来栖は特にそうだ。
ずっと周りよりも優位に立ちたがっていた。

迂闊だった。

来栖にとって「言葉」にどれだけの効力があるかは分からない。
けれどはっきりと拒絶しておくことで牽制にはなるだろう。

これ以上周りを彷徨かれて、好き勝手に詮索されることはあまりにも鬱陶しい。

あんなものはこの世でも無価値なコバエみたいなもんだ。

来栖が言ったことは正しい。

誰の中にでも当たり前にある感情。
自分以外の人間を愛おしいと思う気持ち。
壊してしまうかもしれない可能性に臆病になって、触れることをためらってしまう恐怖。
そして何より「特別」になりたいと思う傲慢さ。

その感情は間違いなく、夜乃とばりへと向けられていた。

夜乃が学園から消えた今、俺はそれこそ空っぽで、無感情だった。