俺の幼馴染なわけでも、親族でも友達でもない彼の死は、俺には無関係なことだけど、
一方的にでも知った人物がこういうことになると、自分もすごく関わっている気になってくる。

母さんは以前よりももっと多忙みたいで、早朝に出掛けて、深夜に帰宅するという生活が続いていた。

気が向いて俺が自炊した日には、母さんの分も残しておくと、翌朝には本心なのか大袈裟なのか分からない感謝の書き置きが残されていた。

相変わらず茹だるような猛暑日が続いていた。

佐藤が言っていたことを信じて、エアコンは一日中つけっぱなしにしている。
キンキンに冷えた部屋でも、一瞬でも窓を開けると暑くて堪らない。

太陽のせいで人間くらい簡単に死ぬよな、なんてことも考えてしまう。

SNSサイトや動画配信サイトに上げられている、幼馴染の彼の事故については散々目を通した。

不運にもそばで目撃してしまった人の証言によると、
特急電車の通過後、やってくるはずだった電車に乗り込もうと、駅のホームには乗客の列ができていた。

特急電車の通過を知らせるアナウンス、
黄色い線まで下がるようにと響く駅員の声も虚しく、
人だかりがまるで見えていないみたいにフラフラと最前まで流れてきた彼は、そのまま吸い込まれるようにホームに落ちた。

佐藤からはひっきりなしにメッセージが届いていたし、
スマホはずっと電話の呼び出し音が鳴っていたけれど、その全てに俺は応えなかった。

「彼が夜乃とばりの関係者だったって、いつになったら世間は気づいちゃうんだろうね」

独り言。

その声に返事は無い。

世間での、夜乃をめぐる事件の熱は全く冷えていない。
そんな中で彼と夜乃の繋がりが明るみに出た時に、世間はどんな残虐な言葉で夜乃を汚すのだろう。

夜乃が消えてしまった世界で起きたことですら、きっと「魔性の女」の仕業にされてしまうに違いない。




夏休みが終わった。

夜乃とばりは戻らなかったし、
その帰りを本気で望んでいる人間がいるのかすら、
俺にはもう分からなかった。