「みっ…見て欲しかったからっ…!」

「見て欲しかった?」

「もううんざりだった!とばりの親友でしか見てもらえない私も、とばりの側近じゃなきゃ価値を見出せない自分も!とばりが居なくなってやっとみんな佐藤アマイが存在してるってことに気づいてくれた…!そしたらどんどん欲が出て…人が大切にしてるものを壊してみたくなったんです」

「どういうこと?」

「朝之先輩、あなたですよ…」

「俺?」

「先輩がとばりを見る目。とばりが先輩を見る目、意識的に作る表情、口調。全てが完璧でした。全てがこの世で一番優れたアートだった」

「褒めてくれてるんだよね?」

「当然です」

「なんかすごく物欲しそうな目で見てた、って感じだったから。咎められてんのかと思った」

「見てた自覚はあるんですね」

「あるよ。あれだけの″完成品″はそう居ないからね。誰かにバレてるとは思ってなかったけど」

「朝之先輩のような人にも認められるなんて。やっぱりとばりは特別なんだ」

心酔し切った目だった。
あれほど夜乃が作る影を憎んでいたとは思えないくらい。
熱に浮かされたような目は、恋をしている女性に近かった。

「佐藤さんの言い方だと夜乃さんも俺を見ててくれてたってことなのかな?」

「最初は驚きました」

「どうして」

「他人に対してそんな感情を抱くとばりを、一度だって見たことがありません」

「言わないだけで感情はあったのかもよ。立派な年頃の女の子なんだし」

「ありません。断言できます」

「そうなんだ」

「誰かに恋をしたことも、周りの女子中高生みたいにアイドルに夢中になることもありませんでした。人間のそういう当たり前の、誰かのことを心から想う素晴らしい感情を憎んでいるようにすら見えました」