「とばり、大丈夫かな」

窓の外を見つめて佐藤が短く息を吐いた。

「それで?」

「え?」

「遮ってごめんね。さっき佐藤さんが言ったこと。俺に佐藤さんは見えてるかって。ちゃんと見えてるつもりだけど」

「ちゃんとですか」

「うん」

「今の先輩の目になら、」

「うん」

「とばり越しじゃない私がちゃんと見えますか」

佐藤が何を言っているのか判然としない。
佐藤の書く文字や表面的な性格、口調が似ていると思ったことは事実だ。
それでも二人は別々の人間で、同じだとは思わない。

「乾燥した薄い薄い、白くなってしまった葉をかざすみたいに、濃い霧、カーテン越しに陰しか映らないみたいに、とばり越しに透かした私じゃなきゃ誰も見てくれなかった」

「そんなことないでしょ。佐藤さんはこうやって生徒会にもきちんと在籍してたじゃん」

「とばりが居なくなってくれたからです。だから私の存在が浮き彫りになったんです」

「えーっと、つまり結局、この話の結末はどうなるの?夜乃さんを大切に思ってる気持ちを信じて欲しかったのか、卑屈になってる感情への理解者が欲しかったのかどっちなんだろう?」

甘い香りがふわっと鼻先をかすめた。
甘ったるい、コットンキャンディーみたいな匂いだった。

ぬるいくちびるだった。

椅子からスッと立ち上がったその姿がスローモーションに見えて、
そっと俺の腕を掴んだ佐藤の小さい手のひらが伸びてきたこともしっかりと見えていたのに、
やっぱり夜乃によく「似せた」その姿には、
どうしたって夜乃とばりの影が透けて見える。