あの日、夜乃に渡すアイスティーを自販機で買って、その場で少量の睡眠薬を混ぜた。
普段から俺が服用していた物だった。

高校に上がった頃からうまく寝付くことができなくなった。
ストレスが大きな原因だとは思うけれど、その症状を母さんには隠さなかった。

すぐに口コミのいいメンタルクリニックを探してくれて通院させてくれた。
重度の症状ではないから、頻繁に通う必要もなく、
その時の症状に合わせて適量の精神安定剤と睡眠薬を処方してくれていた。

沢山の量を混ぜてしまえば、恐らく免疫のない夜乃には効き過ぎてしまうと思ったから夜乃に飲ませる量は調整した。

既にキャップを開けてしまったペットボトルのアイスティーを、夜乃はなんの躊躇もせずに飲んでくれた。

仮に「毒だよ」と言って渡しても
夜乃は飲んだのではないかと思う。

それからしおりだと(うそぶ)いて、夜乃が読んでいた小説に挟んだメモ用紙。
アイスティーを買う時にポケットに入れていたノートを破いて書いたメモ。
備品の破損がないか見回りをしていたのは本当で、要チェックの場所を書き留めていた、小さいメモパッドだ。

下校後、佐藤アマイと別れた後に学園そばの公園で待つように指示をした。

メモを見るのも、夜乃が公園に来るかも賭けだった。

学園を出て公園まで歩く少しの時間。
悔しいくらいに緊張していた。

こんなにも俺の心を、思考を蝕んでくれる夜乃とばりが愛おしくて堪らなかった。

公園の木製ベンチに座る夜乃の姿を見つけた時は絶対に早く、二人でこの世界から消えるんだと誓った。
うれしかった。

夜乃が俺の為だけに思考を巡らせていることが。

「話したいことがあるんだ。ここだと誰に聞かれてるか分かんないから俺のうちへ行こう」

取ってつけたようなでたらめを夜乃は最初から疑う気すらない素振りですんなりと受け入れた。

ほんの少量の薬はゆるやかに夜乃とばりの意識を蝕んでくれた。

自宅に着く頃にはほとんど千鳥足で、休んでいきなよって囁いた俺に、夜乃はコクンと小さく頷くことしかできずにいた。

この部屋に招き入れた夜乃は、誰がどう見たって物置と化している部屋に疑問を持つ余裕すら既に無いみたいだった。

そうして完全に意識を飛ばした夜乃とばりを、
俺は監禁した。