それから一年経っても、俺が生徒会長になって、
夜乃が役員のまま二年生になっても、夜乃は何一つ変わらずに俺の心を翻弄させて、きれいなままで居続けてくれた。

それは俺の救いだった。

他者から求められ過ぎる苦しみを、
まるで心が搭載されていない美術品のように、壊さないように大切に大切に扱われるだけの日々を、
勝手に自動更新されていくだけの命を抱えている夜乃の存在は俺を慰めた。

大丈夫だと思えた。

夜乃が死なないのなら俺も死なない。

夜乃から送られてくる視線にまったく気づいていなかったわけじゃない。

「色」を含んだ女子達の視線とは違う。

憐れむような、全てを受け入れるような、熱を持った視線。

その視線を感じるたびに次第に俺の心臓は早鐘を打った。

夜乃はきっと、近いうちに壊れてしまう。
根も歯もない噂も立ち始めていた。

夜乃の気を引きたい、
陥れたい、それだけの汚らわしい魂胆によって。

夜乃は少しずつ、本人だけの″夜乃とばり″では居させてもらえなくなっていた。

夜乃とばりというアートはもう、他者の心を救って壊す為だけの、他者の所有物だった。

壊れていく夜乃を見続けていると、当たり前に世界は汚くて憎悪すべき対象でしかなくなった。

どうせ俺が壊れているのなら都合がよかった。

壊れているのならもう失うものも守りたいものもなかったから。

だからもう、
夜乃とばりの為に全てを捧げようと思った。

夜乃とばり、失踪前日。
六月二十九日。

あの日、教室で「つまらない」と言ってのけた小説に視線を落とす夜乃を見た瞬間に、

いや、違う。

もうずっと心に決めていたんだと思う。

夜乃とばりをこの世界から消してしまおうと。