ソファに座ったままの来栖のほうに向き直って、名前を呼んだ。

来栖は口をへの字に曲げて拗ねていた。

「ついてきて」

佐藤の手を握ったまま、来栖にもついてくるように促した。
訳が分からないって表情のまま来栖はゆっくりとソファから腰を上げた。

「蜜…どこ行くの」

「上の部屋」

「え…やだよ!この人のことは帰してよ!」

「アマイ、お願いだから言うこと聞いて」

「でも…」

「聞けって」

二階に続く階段の前。
声を低くして言ったら佐藤は目を泳がせて俯いた。

「ごめんなさい…」

「ね、来栖は騒いだりもせずにいい子にしてんのに。アマイができないの?」

「ごめんなさいっ…!言うことちゃんと聞くから怒っちゃヤダ!」

「怒ってないよ。悲しいだけ。今から特別な時間が始まるのに。きれいな思い出が台無しになるかもしれないことしないで?」

「はい…」

階段を上る。

黙って俺の後ろにくっついている佐藤。

その後ろから来栖が囁くように問う。

「何をするの。今から」

部屋のドアの前。

俺のじゃない。

「もううんざりなんだ。俺が壊れてるのならやっぱり正しく戻さなきゃね」