「なんなんですか、あの女」

来栖と入れ替わるようにして空き教室に入ってきたのは佐藤だった。

襟元が乱れて、ネクタイも放り出したままの俺を一瞥して、佐藤は汚物を見るような目をした。

「裏切り者」

「人聞きが悪いな」

「どこがですか。ほんと見境ないですね」

「アマイ」

「はい?」

声が尖っている。
今まで俺に向けてきた声の、どの表情にも当てはまらない。

女の嫉妬は俺にとって、便利なものでしかない。
嫉妬しあって、勝手に殺しあってくれたらいいのに。

「おいで」

「やです」

「えー、冷たいな」

「こんな状況でよくそんなこと言えますね」

「じゃあいいの?今日はもう触れなくても?」

「最低!私はっ…」

グイッと腕を引っ張って引き寄せたら、倒れ込むようにして俺に覆い被さる佐藤の体。
そのまま二人で床に倒れて呼吸が乱れるくらいのキスをした。

「分かってるよ。俺だけなんだよね。ごめんね?」

「…許さない」

「じゃあ一緒に死のっか?」

「バカ…そんなこと言ってない…」

「ごめん。アマイ、こっち見て」

睨みつけるように俺と視線を合わせた佐藤。
抗うことなんかできないくせに、もしかしたら優位に立てる瞬間があるかもしれないって試みる意地らしさは、確かに可愛いのかもしれない。

「なんですか」

「俺の為に生きてね」

「…きっと」

「約束だよ」

来栖は俺を救いたいと言う。
佐藤は俺との破滅を望んでいる。

両極端に在る二つの命をどう扱えば、俺は一番大切なものを守れるのだろう。